ボトムのコンケーブ
サーフボードのボトム形状は
水の流れをコントロールするために
歴史的に様々な形状が考案されてきました。
実際には図のような、一種類のボトム形状だけではなく
いくつかのデザインを組み合わせて、
ここまではフラット、ここからはVEE+コンケーブ
というような複雑なデザインが施されています。
用途に合わせて多様なボトム形状があり、
目立たないところですが、シェイパーの腕の見せ所です。
サーファーズイヤー手術の難しさ
サーファーズイヤーの手術は、病的に増殖した骨をひたすら削る手術。
やることはシンプルですが、針も入らないような狭い外耳道の中では、
外耳道の皮膚を温存しつつ、骨病変だけを取り除くことは、予想以上に困難です。
特に耳の穴からの手術の場合、通常の耳の手術に慣れている耳鼻科医でも、
視野が取りにくく、ワーキングスペースが狭いどころか、ほぼ無い!ことによる操作の難しさに驚くのではないかと思います。
とにかく術野がせまく、外耳道の距離の分、長い機械で作業しないといけないので、ひとつひとつの操作の準備が、とても面倒くさいのです。しかもこの部位の骨はヒトの身体の中でもとても硬い!硬い!硬い!
三度書きたくなるくらい、とにかく硬くて処理しにくい骨なのです。
サーファーズイヤーの骨病変は、鼓膜に接するほどにすぐ近いため、乱暴な操作も厳禁です。
現在私が行っているような、極小ノミで骨を削る手術が開発されていなかった頃、ドリルを用いて骨を削る方法が主流でした。
今でもこの方法で手術されているところもあります。
ほんの数年前に発表された海外からの手術方法の論文でも、「皮膚が無くなった場合の対処法」が話題になっていました。これは皮膚が無くなってしまうことがよくあることの裏返しでもあります。
未だにこんなことが論文のネタになるのか、と愕然としましたが、サーファーズイヤーの手術は、一般的には、それほど数が多いものではないので、習熟した耳鼻科医というのが極端に少ないせいもあると思います。
骨を削るためにドリルを用いると、骨粉を洗い流すために、外耳道を頻繁に洗う必要があります。外耳道の皮膚は大変薄いので、吸引で吸っただけでも無くなってしまうことがあります。
繰り返し、洗浄と吸引を繰り返すと、外耳道の皮膚がふやけてしまうこともあり、さらにボロボロになりやすくなります。また、ふやけて張りのなくなった皮膚は、ドリルで皮膚を巻き込んでしまう危険性もあります。
皮膚を巻き込まないように、アルミ箔やシリコンシートで防御しながらドリルを用いるやり方もあるのですが、サーファーズイヤーの手術は、「とにかく骨を削る」手術なので、皮膚の防御ばかりに気を取られていると、なかなか先に進みません。
ドリルを用いて手術を行っていた時代は、どうにかこうにか手術が終わる頃には、外耳道の皮膚がかなり無くなってしまっていることもある、というやり方でした。
皮膚がなくなってしまっても、周囲に残っている正常な皮膚が伸びてくるのですが、それまでには数週間から月単位の耳処置に通う必要があります。
しかもガーゼが耳に入ったままになるので、術後の不便を考えると、両耳の手術はちょっとむ行いにくい、という背景がありました。
私が耳鼻科医になった10数年前は、サーファーズイヤーの症例も少なく、
耳の経験がある術者にとっても、「サーファーズイヤーの手術は難しい」というのが共通する認識だったと思います。
大学病院時代、耳鼻科の学会会場などで、多くのご高名な先生に聞いて回りましたが
「あんな手術は、外耳道の皮膚がなくなってしまって当然だ。」
と話されていた耳の手術の大家もいらっしゃいました。
それを聞いて、手術法を学ぶために渡米を決心しました。
私自身、過去10年ほどのサーファーズイヤー治療の歴史を振り返ってみても、外耳道皮膚を温存しつつ、骨病変を十分に削除することが、技術的に大変難しく、苦労してきたところでした。
最近、サーファーズイヤーの経験手術件数が250耳を超えました。
経験数が200耳を超えた頃から、外耳道の皮膚を温存については
「高度狭窄症例でも、いつも温存できる。」ことになってきました。
さらに両耳の手術を行う場合にも、手術時間もかなり短くなりました。
今の課題は、次のステージに進み
いかに「サーフィンが快適な耳にするか」になっています。
サーフボードを削るシェイパーの気持ちに、少し近いところがあるかもしれないな、と思いながら手術に望んでいます。
サーファーのお耳に水抜けが良くなるよう...コンケーブを。
外耳道の水抜けがよくなるように、波待ちのときの姿勢と、ベッドに仰向けになったときに外耳道の水の排出路をイメージしてコンケーブを入れています。
サーファーズイヤーの病変が残存して水抜けが悪く感じることのないよう
鼓膜ギリギリのところまで外耳道のカタチを整えます。
下の図で、左が術前、右の写真が術後の状態です。
真ん中、下段の青いブルーの範囲の骨病変を削ります。
青の点線で示すのが、水抜けがよくなるように施したコンケーブです。
波待ちしているとき外耳道の下方になる位置、
まら、横になったときに背中側になる位置に骨の高まりが
残らないようにコンケーブ状にシェイプしています。
鼓膜面から外耳道への連なりが、スムーズであることがわかると思います。
手術のあと、サーファーに
「サーフィンの調子よくなるようにコンケーブ入れときましたよ」
というと皆さんニヤリとされます。
冗談ではなくて、本気で入れてます。
サーファーが考える、サーファーのための手術。
最新の手術方法が、最も良い結果につながるように、改良を重ねています。
surfersear.jp
Haruka Nakanishi