サーファーによるサーファーのための手術
サーファーズイヤーの手術が必要になったとき、
大きな病院ならどこで手術を受けても、同じように治るだろう...とお考えでしょうか。
耳鼻咽喉科の専門医なら大丈夫だろう...とお考えでしょうか。
本当にそうでしょうか。
そもそも、サーファーズイヤーは国内でこれまで手術に至る症例数が少なく、治療経験の豊富な医師が少ないという背景があります。
狭くなった外耳道をある程度拡げるだけなら、耳の手術経験が豊富な耳鼻科医であれば、ある程度まで可能だと思います。
しかしながら、サーファーズイヤーの手術は、通常の耳後切開で行う手術では全く操作しないような部位の病変を削除しないと、外耳道がしっかり拡がりません。
通常の耳の手術と同じように考えていると、狭い外耳道の中で、外耳道皮膚がぼろぼろになり、出血のコントロールもできなくなり中途半端な手術になる可能性があります。
また初回の手術で、外耳道前壁の鼓膜に近いところの骨病変がそのままになっていると、耳閉感が残りやすく、水抜けの悪さが再発しやすいということがあります。
この部位は手術操作が難しい部位なので、サーファーズイヤーの手術に慣れていないと、触らずにそのままにしているケースも多いと思います。
過去40年程度さかのぼって、サーファーズイヤー関連の医学関連論文はすべて収集し、眼を通してみたところ、
1977年にSeftelによってサーファーズイヤーという名称が着けられて以降、いろいろな治療法が提案されてきましたが、10年ほど前まで歴史的にサーファーズイヤーの手術は耳の後ろを切って行うほうが安全とされてきました。
大変狭い耳の穴の中の手術では、鼓膜も近い部位の骨病変を除去するのは技術的にとても難しいので、少しでも視野が広いほうが安全だという考えからです。
今でも、高度狭窄耳の場合、耳の後ろの切開による手術を行う施設が多いと思います。
何を使ってサーファーズイヤーを取り除く?
サーファーズイヤーは外耳道の骨が増殖する疾患ですが骨を削る方法には、ドリルを用いる方法や、ノミを用いるもの、超音波装置などがあります。
よくサーファーから質問されることで、「サーファーズイヤーはレーザーで手術するんでしょう?」という声をききます。
一般的に誤解が多いことなのですが、レーザーではサーファーズイヤーの手術はできません。骨が黒焦げになるだけです。サーファーズイヤーの骨病変はヤワな骨ではなく、とても硬い緻密骨なので、現在出回っているようなレーザーではとても除去できません。
鼓膜のすぐそばにとても硬い骨病変がある、ということになるので、鼓膜を無傷のまま保ちながら、きれいに病変を取り除くには相応の技術が必要になります。
骨病変はとても硬いのですが、一瞬でも手元が狂うと鼓膜を傷つける可能性がある
ギリギリまで骨を取り除くという忍耐力が求められる手術だと思います。
私自身の場合には、両耳の手術を行うことがほとんどですので、合併症を起こさず、ギリギリまで攻められるよう集中力を保てるように努めています。
骨病変を取り除くのに、ドリルを用いると、どんなの上手に行っても、骨くずを洗い流すために洗浄と吸引を繰り返す必要があります。外耳道の皮膚は大変薄く、不用意に吸引管がふれただけでも無くなってしまうことがあります。そのため、ドリルを主体に行う手術では、どうしても外耳道の皮膚欠損が起こりやすく、さらに騒音による内耳への影響も問題になります。
加えて、ドリルは熱を発生するので、解剖をよく理解していないと顔面神経へのダメージが起こりえます。
国内でも術後顔面神経麻痺のケースがあったことはサーフィン業界ではよく知られた話です。(経験ある術者が手術前にCT画像をよく見て、手術を行えばリスクは高くありません。)
私がサーファーズイヤーの研究に関わるようになった2009年頃は、ドリルを使うことが通常のやり方でしたので、サーファーズイヤーの手術は、術後に外耳道の皮膚がある程度なくなってしまうのは仕方がない、というのが耳鼻科医に共通する認識でした。
海外では両側手術しても日帰りで終わる施設もあると聞くのに...と
サーファーとしても、耳鼻咽喉科医としても悔しい思いがありました。
サーファーズイヤーは近年まで手術件数自体が少なく、日本国内では手技が育ってこなかったという背景があります。
私は、耳の手術件数では国内トップクラスにある宮崎大学に長年在籍しましたが、2010年ごろまではサーファーズイヤーの手術は稀で、数年に一度という程度でした。
2011年頃から、サーファーズイヤー症例はほぼすべて担当させていただきましたが、耳の手術トレーニングを長年受けてきて、相当な数の耳科手術を経験した後でもサーファーズイヤーの手術をきれいに行うのは至難の技でした。
どうしてもドリルを使った手術では皮膚欠損が生じやすく、外耳道深部にサーファーズイヤーの病変が残ってしまうのでした。
どこかに上手い先生がいないのか、と調べてみると、カリフォルニアに画期的な方法で手術をされる先生がいらっしゃると知りました。
Dr.Douglas Hetzler
Douglas先生はノミを用いて、耳の穴から行う革新的な手術法を開発されました。短期で治癒にいたる手術を2007年有名な医学雑誌に報告されていました。
信じられないほど素晴らしい結果に、その手術の詳細を尋ねてみたくなり、
連絡してみたところ、
「手術を見にカリフォルニアに来ますか?」とのお言葉。
先生のいる北カリフォルニア、サンタクルーズは波が良く、サーフィンもとても盛んな地域です。
Douglas先生もサーファー。
「板はこっちにあるから、ウエットスーツだけ持ってきたらいいよ」
とまでお伝えいただき、一緒にサーフィンに行く約束まで! 行かない理由がありませんでした。
トントンと話が進み、2013年にDr.Douglas Hetzlerの下で、サーファーズイヤーの新しい手術法を学びました。
Douglas先生から学んだのは、全くドリルを使わず、ノミとハンマー、キュレットという骨を削るスプーンのような機械を用いて、耳の穴からサーファーズイヤーの病変を取り除くやり方です。
私が訪れたときにはすでに1100耳以上のサーファーズイヤーの手術を経験されていました。
通常の耳科手術とは異なる、耳の穴の中からの手術。
それを行うためのセッティングのコツのあれこれも、つきっきりで惜しみなく教えていただきました。
ドリルを使うと、骨くずを洗い流すために手術中に水による洗浄が何度も必要で、外耳道の皮膚を傷つけてしまう操作になりがちです。ドリルで皮膚を巻き込んでしまう危険性も非常に高く、特に外耳道の狭いサーファーズイヤーの手術では危険な操作になります。
ノミを用いる手技は、水を全く必要とせず、外耳道の皮膚を温存するのにとても有利です。難点は操作が難しく、狭い外耳道での取り扱いに習熟するにはかなりの時間を要することです。
私は2013年にこの手術法を習うまでは、ドリルを用いながら外耳道の皮膚を温存する egg shell methodというやり方で手術を行っていましたが、帰国後にノミを用いる方法 ”chisel method” に完全転向しました。
すでにchisel methodに変更してから、200耳以上のサーファーのお耳を手術しています。
Dr. Hetzlerの下には、世界中から多くのサーファーが手術を受けに集まっており2019年の6月までに2200耳以上という、凄まじい数の手術経験を有します。WCTサーファーも多く手術を受けています。
筆者(中西 悠)は2019年末の6月次点で230耳程度の手術経験数です。(2021年9月 通算400耳超えています)
現在、私の行うサーファーズイヤーの手術では、Dr. Douglasから教わった方法に切開法に独自の改良を加えています。
アジア人は、欧米人に比較して、外耳道が狭く、カーブが強いためです。
その結果、外耳道の皮膚の温存程度と治癒までの時間については、本家のDouglas先生を上回る手技になっていると考えています。
私が用いているスパイラル状の切開法は、手技がやや煩雑で、視野がとりにくいため、慣れないと手術時間がかかってしまうのですが、術後のサーフィン復帰までの期間が圧倒的に短く、2〜3周程度なので、この方法にこだわっています。
サーファーズイヤー手術のご相談は
「はるか耳鼻咽喉科」中西までお電話を下さい。
大阪 和泉市の耳鼻咽喉科
電話 0725-50-3333
耳鼻咽喉科専門医:中西 悠
手術は下記施設で行います。
耳鼻咽喉科サージクリニック
老木医院
〒594-0061 大阪府和泉市弥生町2-14-13
Tel: 0725-47-3113
SurfEars 3.0
バリエーションに富むサーファーズイヤーの形態と、手術直後の画像を供覧します。